29.「彼岸より」

KI02秋 曼珠沙華コサージュ

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こんなもん金子功以外の誰がつくるというのだろう。曼珠沙華、つまり彼岸花のコサージュ。不吉な花の代名詞、”シビト花”だの”幽霊花”だのろくな別名を冠していない花。見た目の色の血のような赤や、彼岸時期に群れ咲く姿、おあつらえむきに球根には毒があるという。評判が悪くても仕方ないというほど条件が揃ってはいるけれど(でも処理すれば実は球根は食べられるらしく、実際飢饉のときはこの花の球根が食料になったこともあるそうな)。

それでも彼岸花は大好きな花。細い花弁と細いしべの、複雑でレェスのような細工。端正な立ち姿は百合にだって劣らない。
この花の暗くて鮮やかな赤が群生する様は、晩夏の厳しい真昼の眩暈のよう。

母の実家がかなり最近まで土葬で、その墓地まで行く坂道(というか崖に近い斜面をぐるぐるまわる道)に添って、崖の上のほうにずっと群れて咲いていた。とろうとすると母に叱られたのを憶えている。縁起の悪い花だからと。親しい人たちの眠る場所へのみちを飾る、この花のどこが不吉だろうか。わたしは少しもこわくないのに。この花も、眠る人も。彼岸から咲き出る花ならば、形見に持って帰りたい。つながるのなら届けて欲しい、此岸から彼岸へ、ただ一言なりと。

白の曼珠沙華がたまにあるけれど、あの白い大輪も大好きで、今回思わず「白は出ないんですか?」と担当さんにきいてしまい、担当さんを困らせた(絵型解禁前にそういう情報は喋っちゃいけないのです。ちなみにこの曼珠沙華は絵型解禁日に入荷だったので、当然色展開などの情報は事前に耳に入れてはいけません。担当さんゴメンナサイ;)
最初の生産数はなんと全国30個。あまりに人気で再生産がかかったそうです。本物そっくりに波打つ花弁の縁、太く巻かれた明るい緑の茎と、赤いべがとても繊細で大胆。曼珠沙華の時期には夏の風情に敬意を表し夏らしく、時期が下ったら花そのものの存在感を活かしたつけたかたをしてみたい。

花弁の裏も灰がかったピンクで裏打ちされて、しべも暗い赤で巻いてあって、驚くほど実物に忠実。同柄コーディのみならず、和調にも、無地の黒にも白にも何にでも合う、意外な万能コサです。
実物はもっといい色なんですが、何度やってもうまく撮れないのでこのへんでカンベンしてやってください。

29higan_02ki_02裏側にはベージュピンクの薄い皮膜の裏打ちまでしてあって、実に本物そっくり。ひとつ違う点は、ほんとは天頂部には花がついてないことです。でも胸に飾るときに天頂部がスカスカだったら、一番目立つ部分に花がなくなってしまうので、アクセサリーとして換骨奪胎したのでしょう。

新しい種類のコサージュを作るときは、まず本物の花を解体して、構造や花弁の形・枚数、がくの形などを調べるところから開始するものなのですが、これも間違いなくそのようにしたんだろうなあ…絵を描くときもリアリティを追求するためにはデッサンて重要なんですけど、立体でもそれは同じなんですね。