「わたしの心臓」

わたしの部屋の壁を飾る、古い柱時計。カチカチと音をたてる振り子には金のつる草が絡まっている。何日かに一回螺子捲いてあげないと止まってしまう。時刻の数だけ鐘の音が鳴るので、ボンボン時計ともいう。
出先で急に貧血になったり、眠気に襲われてどうしようもなくすとんと眠ってしまったりすることがあって、家に帰り着いて、或いは寝台でふと目覚めて、今何時だろうと見上げると時計が止まっている。カリカリと古びた取っ手で螺子を捲いて、またわたしも動き出す。ある日また急に眠くなる、だるくなる、おかしいなあと思いながら白い寝台に吸収される。そして見上げるとまた時計もとまっている。そんなことを繰り返して、その関係に気づいたのはいつ頃だったか、それからもうずいぶん経つ。
どうやらこの時計はいつのまにやらわたしの心臓になってしまったらしい。カチカチと音を立てる、もうひとつのわたし。
この時計を買ってたぶん5~6年は経つのに、何日に一回螺子を捲けばいいのか、どんなに数えてみてもどういうわけだかまだわかっていない。
アーチ型の枠は二材の使い分けがしてあって、縁は濃くて中は明るい色。振り子にも金のつる草が絡まって、細工が細かい。普段は止めてしまっているけれど、この時計の鐘の音はちょっと独特でいい。
大正頃の振り子時計。お正月あけの霙の日に行きつけの骨董やで一目惚れ。
アーチ型で他のに較べるとかなりお高かったんだけど、どうしても欲しくて取り置きをお願いした。
手付をうとうと思ったら、「こういうマニアックなものは欲しがる人が限られてるから、また来たときでも大丈夫ですよ」と店員さんがいう。
何言ってるんですか、だからこそすぐに引き取らないと。だってうっかりその「限られた人」が見たら、瞬間で欲しがるってことでしょう? そういうものほど油断できないのです。
次の日は大雪だったんですが、それでも取りに行きました。宝物。
大正頃のアンティーク
SEIKO社製
(都内アンティークショップにて購入)

heart

わたしの部屋の壁を飾る、古い柱時計。カチカチと音をたてる振り子には金のつる草が絡まっている。何日かに一回螺子捲いてあげないと止まってしまう。時刻の数だけ鐘の音が鳴るので、ボンボン時計ともいう。

出先で急に貧血になったり、眠気に襲われてどうしようもなくすとんと眠ってしまったりすることがあって、家に帰り着いて、或いは寝台でふと目覚めて、今何時だろうと見上げると時計が止まっている。カリカリと古びた取っ手で螺子を捲いて、またわたしも動き出す。ある日また急に眠くなる、だるくなる、おかしいなあと思いながら白い寝台に吸収される。そして見上げるとまた時計もとまっている。そんなことを繰り返して、その関係に気づいたのはいつ頃だったか、それからもうずいぶん経つ。

どうやらこの時計はいつのまにやらわたしの心臓になってしまったらしい。カチカチと音を立てる、もうひとつのわたし。

この時計を買ってたぶん5~6年は経つのに、何日に一回螺子を捲けばいいのか、どんなに数えてみてもどういうわけだかまだわかっていない。

アーチ型の枠は二材の使い分けがしてあって、縁は濃くて中は明るい色。振り子にも金のつる草が絡まって、細工が細かい。普段は止めてしまっているけれど、この時計の鐘の音はちょっと独特でいい。大正頃の振り子時計。お正月あけの霙の日に行きつけの骨董やで一目惚れ。アーチ型で他のに較べるとかなりお高かったんだけど、どうしても欲しくて取り置きをお願いした。手付をうとうと思ったら、「こういうマニアックなものは欲しがる人が限られてるから、また来たときでも大丈夫ですよ」と店員さんがいう。何言ってるんですか、だからこそすぐに引き取らないと。だってうっかりその「限られた人」が見たら、瞬間で欲しがるってことでしょう? そういうものほど油断できないのです。次の日は大雪だったんですが、それでも取りに行きました。宝物。

アーチ型振り子時計/大正頃のアンティーク・SEIKO社製(都内アンティークショップにて購入)