◆[Note:02] 椰子の実 [カタン<第二集>]

アマゾンさんの在庫もちゃんと復帰して、メールフォームやツイッターからもぽつぽつ到着報告など頂いております。ああよかった、安心しました!予約してあった筈なのに発売日に届かなかったときのがっかり感と言ったら、みとせ個人も一リスナーとしてCDを買ってそうなった場合を考えると100がっかりくらいは行くので、お察しすると共に申し訳ない気持ちでいっぱいですが、待った分たくさん楽しんで頂けたらとても嬉しいです。

さてさて、本日も「カタン<第二集>」について行ってみたいと思います。ご興味のある方はどうぞお付き合い下さい。

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2曲目は「椰子の実」。1曲目の重さと物悲しさを払拭するウォームな印象の曲です。…と言いながら、実は歌詞はかなりせつない望郷の詞なんですけれども。
この曲もアレンジは太田さん。
太田さん編曲が冒頭から2曲続きますが、太田さんはこの「第二集」では前回のRivendellさんが担っていたポジションを担当しています。つまりアルバム全体の「背骨」です。1枚目と2枚目のカラーの違いはこの背骨役の方の音楽的キャラクタァによっても方向付けられているように思います。

この曲に関してはみとせの中で、ギター主体でウォームにやわらかく、というある程度明確な方向性があって、この雰囲気のものをお願いするなら太田さんしかいない、と思っていましたので、実は最初から太田さんご指名と心が決まっていました。太田さんの奏でる音そのものがこの曲の「ウォームさの中にある寂寥」というイメージにぴったり合っているので、太田さんが弾いてくれたらそれだけで大丈夫!くらいに考えていたのです。が、太田さんから上がってきたアレンジデモを再生したら、なんとそこにはウクレレが。
直球といえば直球なのかもしれませんが、思わず”ニヤリ”としてしまったわたくしでした(笑)。

こういう拡大解釈は大歓迎。ハワイの楽器であるウクレレの、緩く張られた弦の響きのおかげでゆったりした空気感とウォームさが増しました。
と、いうか、なんだかもう温くて汐の香りがする風の手触りが浮かんでしまって、今すぐ沖縄とか宮崎とかに行ってアロハとか浴衣とか着て海辺の家の窓辺でゆるゆる風に吹かれながらオリオンビールとか焼酎とか飲みたい!!!!(←ノンブレスでどうぞ)と思ってしまいました。おかげでこの曲を聴く度オリオンビールが浮かびます。パブロフです。…って脱線しましたすみません。

ちゃらりちゃらりと小さく刻む弦は寄せて返し足首を洗う汀の波、その細波に身を任せてたゆたえば、弦楽四重の夏風がゆるりと吹き抜ける。間奏抜けのツリーチャイムは黄昏の垂帳の裳裾たなびく一番星のきらめき。やはりここでも太田さんのアレンジはそれぞれが明確な姿を持って絵画的な風景を成す。

太田さんの曲で演奏して下さった弦楽四重奏チームは珍しいことに全員が女性で、そのせいか音にも感性のやわらかさややさしさが表れているように感じます。…と言いながらも弦四の皆様クラシックだけでなくジャズからプログレまでこなせるやはりというか「こちら側」ニュアンスの方々でしたが(笑)。弦四の写譜は「月の沙漠」でピアノを弾いて下さった鶴田萌子さんが担当して下さいまして、弦四の収録にも立ち会って下さったのですが、現場ではアレンジャーであるはずの太田さんに対しても鋭いドSツッコミを(しかも音楽以外の部分で!)入れていらしたのが印象に残っています。
そして何故か現場にいる人間が全員(奏者、アレンジャー、写譜、エンジニア、ヴォーカルまで全て)とんでもない酒豪と判明。アルバム発売の暁にはみんなで杯を交わしましょう、と約束したことでした。…ってまたお酒の話に、すみません。

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この曲の作詞は島崎藤村。藤村というと詩人というより後期の作家のイメージが強いかもしれませんが。
そして意外なことに、この詞の舞台となっているのは愛知県。しかもこの「流れ寄る椰子の実」を拾ったのは藤村本人ではありません。民俗学者柳田國男です。彼が療養のため伊良湖に1か月半ほど滞在したとき拾った椰子の実、その話を藤村に語ったところ、藤村はたいへんな感銘を受け、「自分が作品として発表するまでその話を他言しないで欲しい」と願い出たのだそうです。
藤村の中の幻想と詩情に包まれてその心の中で羽化した旅情と望郷は、カタンシリーズの根底に流れる「どこにもないどこか」であり「魂の故郷」へと繋がるものと感じます。


・「カタン<第二集>」公式サイト
http://www.team-e.co.jp/sp/cotton2/
ティーム・エンタテインメント