この美しい5月

5月になると中井英夫の短編を思い出す。
タイトルも忘れてしまったが「薔薇への供物」に収録されていた作品だと思う。
美しい少年だか青年だかがいて、遺書のかわりに薔薇の名前を列記した紙を遺して死ぬ。
状況は自殺なのだが自殺の理由が全く見当たらない。
残された友人である主人公はどうしても理由を知りたくて、
その暗号を解くべく薔薇の名前と色を調べ始める。
暗号は解かれ最後に遺書の内容が翻訳されるのだけど、それは
この美しい5月に美しい薔薇に囲まれて美しいまま死ねるこの僕の幸せをわかってくれますか
というような内容だった。
(…という話だった気がするのだけど、脳内で改変されていたらすみません・笑)
5月になるといつもこの「遺書」を思い出す。
「天気がいいから自殺してみるか」くらいの感覚がよいと書いていたのは
寺山修司だった気がするのだけれど、その文章を読んだときも
5月を勝手にイメージした。
わたし個人は5月が好きなわけでも初夏が好きなわけでもないし、むしろ暑くなってきて
血圧も下がってどちらかといえば憂鬱の始まりみたいな月なのだけれど、
それでもこの作品のおかげか「5月」という言葉は美しいイメージと縫い合わされている。
この美しい5月。
*

ここのところあまりに人生のいろいろがいろいろだったので、
自分の心にもひとつくらい手当てをしてやってもバチは当たらないと思い
長の念願を叶えてアンティークのケビントを購った。
あまりに嬉しくてベッドに入ると見えるところにまだ何も入れずに
置いて眺めている。我ながら阿呆すぎる。

作詞でこもってディスプレイに向かってずっと椅子に固まっていたら
腰にキたので只今着物生活中。すごく楽です、ビバ日本文化。