「ヴィオラ・マニア」

ヴィオラ・マニア

ヴィオラ・マニア

聖母マリアの花、菫。この花のモチーフが好きなのだと気づいたのは、菫に纏わるものが相当数手元に集まってからだった。菫の花籠が描かれたヴィクトリアンカード、菫のコサージュ、デメルの菫の砂糖漬けの丸箱、菫の名を持つ鉱石。古い家具の引き出しの奥から出てきた、しみだらけでスカラップの縫い取りも解れ、穴が開いてしまっている菫刺繍のハンカチも捨てられずに取ってある。

けれど植物の菫そのものが好きというよりは、菫という意匠、色みとあの細くしなる茎が好きなのだろう。青みのかかった独特の紫と、淡い緑のか細い茎。三色菫も地についているときはまったく美しいとも思えないのに、花屋の軒先で切られて手のひらほどのシングルブーケに束ねられているものを見ると、まるで別の植物のように強く惹きつけられる。ぞんざいに輪ゴムで束ねられただけの、ケーキひとかけらほどの値段しかつけられていない質素でシンプルな花束。そんな地味な扱いであることも愛しさを覚えるひとつの要因ではあるのだけれど、おそらく何よりも花の大きさに不釣合いなほど細く柔らかな茎がはっきり見えるからなのだろうと思う。

あの茎はまるで斬られることを予知しているなよやかな首、或いは下垂する白い腕のようだ。束ねられた可憐な死の具現。
死と悲しみと清廉と、反するように重く甘い馨を孕む、菫という意匠がとても好きだ。

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画像はケビントの中のマリア~菫つながりのコレクションコーナー。

タグ:植物、アンティーク